戦車の運転に必要な「MOS」とは?操縦士は戦闘機乗りに匹敵するエースである理由

日本でも陸上自衛隊が保有しており、そのたくましい姿からミリタリーマニアならずとも純粋な機能美やカッコよさに憧れる人は多い、「戦車」。

履帯(キャタピラ)を使わず8輪タイヤで走る「16式機動戦闘車」や長距離砲撃用の各種「自走砲」もありますが、どうせなら力強いフォルムのバランスが取れた74式戦車、90式戦車、10式戦車を「運転してみたい」という人もいると思います。

戦車の運転に必要な免許は、たとえば同じキャタピラ式のブルドーザーやパワーショベルとは、また違うのでしょうか?

目次

大型特殊免許(大特車はカタピラ車に限る)とMOSが必要

日本で陸上自衛隊に配備されている戦車は、古い順に74式戦車、90式戦車、10式戦車の3種類で、他にキャタピラではなく8輪タイヤ式、防御力や悪路走破性は戦車に劣るものの、舗装路など平坦路での高速走行に優れ、火力は74式戦車並な16式機動戦闘車があります。

さらに装軌車両(キャタピラ式の装甲車両)だけでも、99式自走榴弾砲や87式自走高射機関砲、73式装甲車など、何種類も配備。

近年は「駐屯地から近くで輸送艦へ乗船できる場所へ、輸送艦から降りたら戦場まで」のスピードを重視した装輪車両(タイヤ式の装甲車両)が増えたとはいえ、スピードより戦闘力重視な装軌車両も並行して配備し、互いの長所を活かす方針になっています。

数は減ってもまだまだ必要な戦車の操作に必要なのはまず第一に「大型特殊免許(大特車はカタピラ車に限る)」という、一般ではあまり目にしない変わった運転免許。

通常、「大型特殊免許」といえばショベル・ローダやタイヤ・ローラなど、建設工事や道路工事現場で活躍する重機、フォークリフトなど運搬車両、除雪車など特殊用途の車両で、サイズや最高速度が法律で定められた以上な「大型特殊自動車」の運転免許です。

運転する車両の特性上、搭載した機械の操作技能も求められるのが特徴ですが、走行装置がキャタピラ(カタピラ)式か、タイヤ式かという区別はしていません。

しかし陸上自衛隊では、教育期間短縮と経費節減のため、「大型特殊自動車の中でもカタピラ車限定」という特殊な免許制度が存在します(限定しない大特免許もある)。

この運転免許に加え、MOS(モス)と呼ばれる特技(自衛隊の隊内資格)のうち、戦車の運転に必要なMOSを取得するか、部隊長を承認を得るかのいずれかを経てようやく、戦車を運転できるのです。

なお、MOSは戦車の運転に限らず自衛隊のあらゆる技能に設定されています。戦車なら運転MOSの他に砲手や車長MOSがあり、機動戦闘車や装輪装甲車など装輪車両も、それぞれ第一種大型免許を取った上で必要なMOSなしに運転や操作はできません。

戦車の運転に必要な「MOS」とは?操縦士は戦闘機乗りに匹敵するエースである理由

もちろん、自衛隊員ではない一般人はMOSを取得できないため、大型特殊車両免許や大型車両の免許を持っていても、法的に自衛隊車両を運転できない事になっています。

それでは、陸上自衛隊へ入隊しても、機甲科への配属希望が通らなければ「大型特殊免許(大特車はカタピラ車に限る)」は取れないのでしょうか?

ちょっと昔の事になりますが、25年前に入隊した元陸上自衛官・普通科(歩兵)のKさんから話を聞きました。

「僕の場合、トラック運転するのに大型免許と牽引取ったくらいですが、部署によるんですよ。豆タンク(普通科の対戦車装備・60式自走106mm無反動砲)の担当とか、本部管理中隊の管理整備小隊、作業小隊なんかも大特のカタピラのみか、装輪も運転できる免許取ってる人多かったですね。」

普通科でも装軌車両があればもちろん、施設科(工兵)ばりにバケットローダーやユンボなど重機がある作業小隊や、あらゆる車両を整備修理する整備小隊では必須だったようです。

「装備がある以上は運転できるようにって事ですが、ごく普通の普通科隊員でも、自教(自衛隊自動車訓練所。学科試験だけは一般と同じ会場)に空きがあれば、手空きの隊員が指名されて教習に行ってましたよ。ただ、正社員(※)が優先されてる感じでした。」

(※正社員:定年までの終身雇用で入隊した陸曹・陸士の事で、2年更新で5~6年継続が限度の陸士は「契約社員」。陸尉・陸佐・陸将といった「幹部」は運転MOSがなくなるんで、基本は運転できない身分だったそうです。)

むむむ、自衛隊に入ったらいろいろ免許や資格が取れて再就職も楽なのが魅力かと思っていたのですが、すぐやめそうな人は免許取得の優先度が低いのでしょうか。

「僕が大型と牽引取りに自教へ行った時だと、同期の非任期制隊員のほか、任期制の契約社員では任期継続期限ギリギリな5~6年目の隊員と、あと牽引では定年退官間際の人でしたね。」

なるほど、契約社員にせよ正社員にせよ、退官間際だと再就職も考慮した免許取得に便宜を図ってくれるようですが、カタピラ限定の大特車もそんな感じかというと、「普通科でしたし、人の免許なんてそもそもあまり見ないですからわかりません。」という答えでした。

それよりも「え?カタピラ限定って自衛官専用なんですか?今知りましたわ!」ということだったので、案外自衛官でも意識していない免許制度のようです。

陸上自衛隊の機甲科、あるいは普通科や施設科、特科(砲兵)でも装軌車両やカタピラ式重機があれば、自衛隊車両に限り公道でも運転できる「大型特殊免許(大特車はカタピラ車に限る)」を、早ければ18歳から教育を受け、19歳から免許を取得できます。

通常の大型特殊免許と同様、運転だけではなく、搭載した兵器や装備を扱える「MOS(特技)」も必要ですが、若くして戦車乗りになれるのは魅力です。

ただし、近年の陸上自衛隊は古い74式戦車の後継。キャタピラ式の10式戦車以外にタイヤ式の16式機動戦闘車、装甲車や自走砲もタイヤ式が増えています。そのため、機甲科でも「大型特殊免許(大特車はカタピラ車に限る)」とは限らず、大型一種免許に留まるかもしれません。

さらに、「契約社員」の優先度は大型免許ですら低く、「2年契約の短期入隊で戦車のMOS(資格)取ったらヤーメタ!」というのはまず無理な上に、適性検査のパスも必要。

せめて三等陸曹以上の陸曹候補である程度は長く任官を続ける意思も必要ですし、適性検査をパスして免許を取っても、戦車の運転MOSを取得して操縦手になれるのはごく一部となります。

そのため、「大型特殊免許(大特車はカタピラ車に限る)」を取得しても、これからの陸上自衛隊で戦車乗りになるのはなかな難しそうですね。航空自衛隊なら戦闘機乗りに匹敵するエースと言えそうです。

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