■ 平成28年排出ガス規制の認証で耐久試験や燃費測定に不正行為 日野自動車は3月4日、国内向けの車両に搭載するエンジン3機種について、平成28年排出ガス規制の対応で、エンジン性能を偽る不正行為があったとして、搭載車両の出荷を停止すると発表した。さらに、燃費性能の問題が判明したエンジン1機種と合わせ、国土交通省と経済産業省に報告した。16時から不正行為について会見を開き、説明を行なった。【この記事に関する別の画像を見る】■ 小型から大型まで4エンジン搭載車が対象、トヨタ、いすゞにも搭載車あり 問題となったエンジンは中型エンジン「A05C(HC-SCR)」、大型エンジン「A09C」「E13C」と、小型エンジン「N04C(尿素SCR )」の4機種。A05C(HC-SCR)とA09C、E13Cはエンジン性能を偽る不正があり、小型エンジンN04C(尿素SCR)については、不正の有無は判明していないものの燃費性能の問題が判明している。 いずれも安全上の懸念は発生しないとしており、ユーザーは継続使用して問題がなく、ユーザー側での対応も必要ない。 今回問題が判明したエンジンを搭載し、2022年2月末まで販売した台数はA05C(HC-SCR)を搭載した中型トラック「レンジャー」が4万3044台。A09CおよびE13Cを搭載した大型トラック「プロフィア」と大型観光バス「セレガ」が合計7万425台。N04C(尿素SCR)は小型バス「リエッセII」が2057台、合計で11万5526台となる。 また、新車の出荷については、A05C(HC-SCR)、A09C、E13C搭載車は出荷停止となり、N04C(尿素SCR)は現在はモデル切り替えとなっているため新規出荷がない。 これらの車種を2021年度の平均販売台数から算出すると、年間で2万2000台程度が出荷停止となる見込みで、年間販売台数の約35%に相当する。 出荷再開については、社内で再発防止策を行なったあと、認可を取り直すことになり、国交省と相談して進めていくため、かなりの時間がかかるという。 なお、これらのエンジンは他社でも搭載しており、N04C(尿素SCR)は小型バスのトヨタ自動車「コースター」、A09CおよびE13Cは大型観光バスのいすゞ「ガーラ」にも搭載し、いすゞ ガーラについてもいすゞが同様に出荷停止を行なっている。■ 排ガス性能の劣化耐久試験中にマフラーを交換する不正行為 A05C(HC-SCR)の問題は、2016年9月、平成28年排出ガス規制に対応するため、排出ガス性能の劣化耐久試験において、途中でマフラーの排出ガス浄化性能が劣化し規制値に適合しない可能性を認識し、不正に第2マフラーを交換し試験を継続してしまったこと。 このため、2021年4月から行なった再試験結果では、経年変化によって排出ガスの規制値を超過する可能性があることが判明している。 A09C、E13Cは2016年11月に行なった平成28年排出ガス規制の認証試験の燃費測定において、測定装置の操作パネルから、燃料流量校正値を燃費に有利に働くような数値に不正に設定し、実際よりもよい燃費値を表示させるようにして試験を実施した。 こちらも技術検証により、実際の燃費性能が諸元値に満たないことが判明している。 N04C(尿素SCR)については不正行為の有無は判明していないものの、技術検証で実際の燃費性能が諸元値に満たないことが判明している。■ リコールの検討や、税制優遇の差額負担を実施 今後の対応については、A05C(HC-SCR)搭載車については、マフラーの交換などのリコールを検討しているが、制御の変更で対応できる可能性も模索し、個々の車両への対応時間を短くして商用車としての稼働時間の減少を防ぎたいとしている。 A09C、E13Cの不正行為は燃費の数値を不正操作したため、「正しい諸元値を確認した上で必要な対応」をするとし、車両への部品交換などの対策は行なわないとしている。諸元値が変わることで、もとの諸元では税制優遇だったものが対象外となる場合、追加納付となった税金は日野自動車が負担する。 また、N04C(尿素SCR)についても「正しい諸元値を確認した上で必要な対応」をするとしている。■ すでに2021年4月に組織変更を実施、再試験を実施中 今回の不正行為について、3月4日16時から緊急会見を実施し、代表取締役社長の小木曽聡氏と、2021年6月まで代表取締役社長で現在は代表取締役会長の下義生氏が登壇した。 2人は冒頭で深々と頭を下げ、小木曽氏が不正行為について説明した。 小木曽氏によれば、2018年11月に、北米向けのエンジンを米国の法規と照らし合わせ、認証のステップを確かめるなかで、気づいた社員がいたことが発端。米国の弁護士を起用して調査を進め、米当局に随時報告、米司法省の調査が開始された。現在も調査中であるため詳細は伏せられたが、これをきっかけとして日本市場向けのエンジンに調査対象を拡大した。 2021年4月から再試験を開始し、中型のエンジンで7か月、大型で9か月かかるが、その再試験の結果、2021年11月に不正を確認。具体的な不正内容を確認して今回の発表に至るという。 不正行為が発生した背景には、開発現場における数値目標達成や、中型エンジンにおいては数か月におよぶ耐久試験など、スケジュール厳守へのプレッシャーなどがあったとしている。今後はコンプライアンスの最優先の姿勢の明確化や、従業員ひとりひとりの意識改革への取り組みを進めるという。 これまで、日野自動車では認証データを取得する担当がエンジン開発部門のなかにあった。2021年の4月の組織改革で認証データを取得する部門を分け、品質本部の違うメンバーが実施するように変更、再試験も新たな組織体制で行なっている。 日野自動車では今後も再試験を実施、今回判明したエンジン以外にも調査を進めており、問題が判明した場合は必要な対応をするという。 自動車業界ではこれまでも不正行為が発覚しており、2016年5月にスズキと三菱自動車で燃費の不正問題が発生したことを受け、日野自動車でも社内調査しているが、そのときは不適正なことはないと回答している。今回の不正行為は2016年9月に発生しているため、社内調査の結果に矛盾はないが、その後に社長になった下氏は「今回のことが発覚できなかったのは大きな問題だと認識している」と述べた。 なお、日野における北米向け車両に搭載のエンジンは、認証の問題から自社製を搭載せず、カミンズから供給を受けて搭載している。しかし、今回のエンジン認証不正と、北米向けに自社製エンジンを搭載しないことと別の問題だと説明している。■ 業績への影響は精査中 今回の会見では、業績に関する影響は「明確になっていない」として発表されなかったが、前年実績から計算すると1か月あたり1879台が出荷停止の影響を受けるとしており、仮に1年続けば年間で2万2000台が出荷停止になり、前年実績の35%に相当するという。また、出荷停止に伴う雇用への影響についても具体的な回答は避け、今回の問題による進退についても回答を避けた。 今後は、日野自動車と利害関係のない外部有識者による特別調査委員会を設置して、全容解明、真因分析を進め、あわせて信頼回復に努めていくという。
Car Watch,正田拓也